「僕はこの詩集を通じて、詩でなにを得られたか、ではなく。
今まで何を得たのか人生を振り返ることになりました。
言葉の持つ意味は、日々変わります。
あなたの得た知識たちは、詩で懐かしい思い出として生まれ変わるかもしれません」
by ブログ製作者より
(8冊目)ビートたけし詩集「僕は馬鹿になった」内容紹介
本書では全71篇の詩を楽しめます。今回は中から23篇を選びました。
・魔法の言葉
鳥のように、自由に空を飛べたら
魚のように泳げたら、なんて思わない
自由を楽しむ生き物などいない
生きて行くことは、つらく、悲しく、目的もわからないものだ
しかしそんな気持ちを吹き飛ばす、彼女の魔法の言葉
あなたがすきです
・サヨナラ
今までありがとう、なんて言わない
無くした思い出なんて
ただ、自分を苦しめるだけ
サヨナラ
なにかあったら、連絡して、なんて言わない
去っていく君が
僕に用がある訳無いじゃないか
サヨナラ
元気でね、なんて言わない
君が存在しないほうが、忘れられるから
サヨナラ
君がくれた、マフラー、帽子、手袋
引き出しの奥にしまったり、出したり
駄々子のように、俺の手を煩わせる
・急げ
急げ、時は待ってくれない、早く時間を止めろ
さもないと
金も、名誉も、女も、若さも、皆逃げていく
急げ
早く死なないと、皆駄目になる
・オーイ
空は青いか、海は広いか、夢はあるか、友はいるか、誰かに恋してるか
ポケットの金で満足か、
そーか、
じぁあ、さっさと死ね
・騙されるな
人は何か一つくらい誇れるもの持っている
何でもいい、それを見つけなさい
勉強が駄目だったら、運動がある
両方駄目だったら、君には優しさがある
夢をもて、目的をもて、やれば出来る
こんな言葉に騙されるな、何も無くていいんだ
人は生まれて、生きて、死ぬ
これだけでたいしたもんだ
・TEL
今日、昔の友人と会うんだって
昼、何回かTELしたって
いつ会えるか、調べてみるって
土、日、は親元帰るって
パソコン、修理中だって
今習い事してるって
何時(いつ)も夜遅いって、ちょっと風邪気味だって
もう時間がないって
またTELするって
・8月の毛沢東(もうたくとう)
うち上がったハイドレード、悲鳴をあげる電子マネー、
暴走するスタンダード、塗りつぶされたバーコード、
しゃがみこむ共産主義者、自閉するキリスト教徒
自爆するイスラム、武装する人道主義、
性器をまさぐる乳幼児、直結した胃袋と肛門、
死体に群らがる解体業者、ボランティアの集団リンチ、
女房をレイプし我が子を人質に取る父親、
・パンツを脱いだサル
着飾った羽を広げ、必死に女を呼ぶ鳥
血だらけになり、相手の首に牙をうち込むアザラシ
角が折れるまで、ぶつかり合うトナカイ
前夫の子供を食い殺して、メスに言い寄るライオン
頭を食いちぎられても、交尾するカマキリ
俺が女好きなの無理も無い
・孤独
人知れず何か良い事をする
良い事?
人が知らずして、なぜ良い事と分かる
そっと彼女を愛す
彼女が知らなくて、なにが愛だ
釈迦(しゃか)が飢えたトラの前に身を投げ出した、という
誰も見ずして、そんな話が残るか
自分が生きる事、死ぬ事
誰も振り返らない自分はどうやって存在する
だから人間は人の代わりに、神を作った
神に知ってもらおうか
・恋する者
サヨナラと言って彼女が小走りにマンションに入って行く
部屋の灯りがついたら帰ろう
きっと彼女は部屋の窓から見てるはずだ
もっと左側を歩かないと、窓から死角になってしまう
振り向こうかな、それじゃあ未練たらしい
タバコかな、いやちょっときたねぇ
走るか、タクシー代無いみたいだ
ああT字にきちゃった、ここで右か左だ
いやここでタクシーだ
来た、あ、手上げたのにいっちゃった
まずい、彼女に見られた、どうしよう
そうだ頭掻いてごまかそう
なんだ俺は?
・友達
困った時、助けてくれたり
自分の事のように心配して
相談に乗ってくれる
そんな友人が欲しい
馬鹿野郎、
友達が欲しかったら
困った時助けてやり
相談に乗り
心配してやる事だ
そして相手に何も期待しない事
これが友達を作る秘訣だ
・生きていくこと
我が子がライオンに食われるのを
遠くで、悲しく見てる、ヌーの母親
乳房をしゃぶる事もなく、死んでいく我が子を
力なく、見つめる母親
ボスの子供達を殺して、自分の子供を作ろうとする新ボス
それに応えるメス猿
子供が孵化(ふか)し旅立つのを見届けるまで
じっと見守り、死んでいく蛸
命を育(はぐく)むことは
残酷な殺戮と自己犠牲の連続である
・湘南の海
濡れた路に立ち上る、排気ガスが溶け込んだ霧
そして押し殺した、よどんだ海
海辺に立った、二人の素足に波がかかり
忘れ物を残し、引き上げて行く
僕達の湘南は
車の中で期待したものとは、かけ離れていた
そして
どちらからでもなく、笑ってしまった
・懺悔
母が悲しげに僕を見て
あの時、僕が母に言ったこと
いつまでも僕を苦しめる
何を言ったか
決して、他人には言えない
・素敵な母親
このシャツ何回も色変えてみたと、彼女に言おう
センスいいって言ってくれるかな
プレゼント何軒も探したって言おう
ご苦労さんって言ってくれるかな
レストラン皆に聞いたって言おう
美味しいって言ってくれるかな
いつまでたっても俺は
彼女に母親を求めている
・社会生活
マリオネットの人形のように
俺の、頭、首、肩、両手、腰、両足に
何本もの紐が結ばれている
その紐を、愛が、恋が、仕事が、家庭が、友が
勝手に引っ張る
俺は激しく、のたうち回る
早くこの紐を解かないと、俺は駄目になってしまう
でも解くと、立っていられなくなる
・シンデレラ
おいオネーチャン待ったか?
時間どおりだよなあ、車乗れ、
どうだこの車、買い物行くぞ、
おい何でもスキなもの買え、
なんだそれ、もっと高いもの買えよ、
ようし、つぎはご飯だ、どうだこのレストラン、
美味いか、ああ良かった、
じゃー次だ、どうだいい眺めだろ、
酔ったか、じゃあ帰ろう、
家この辺か、じゃーなー、
どうだ今日だけでも、シンデレラになれたか、
俺はガラスの王子様だ
・死神の誘惑
彼女に振られて、なんの希望もなくなり
こんな事が続くんなら
死んでしまおうかと思う事も有るし
なぜこんな彼女が俺の傍に居てくれるんだろう
こんな事がいつまでも続かないのなら
彼女に去られて、悲しい思いをする前に
死んでしまいたいと思う
結局俺は死にたいのか
・同居人
俺の頭の中に、もう一人同居人が居る
こいつが醒(さ)めた奴
俺のやることに、なんでも冷水を浴びせる
嬉しいとき、そんなにはしゃいでどうすんだ
悲しいとき、お前だけ悲しいと思うな
などと、いつも俺の観察者でいる
こいつを何度も叩き出そうと思う
しかし何時も、時が経ったとき
思い起こすと、何時もこいつが正しい
しかし、目先の事気にせずに、突っ走る
激しい情熱、感動、愛、なんて、可哀想だが
こいつには分からないだろう
・たけし、と武、
ビートたけしがはしゃぎ過ぎたり
調子に乗っていると
北野武がちゃんと叱り
北野武が落ち込んでいると
ビートたけしが笑わせたり、励ましてくれる
でも、
二人が同時にダメになったとき
いったい誰が助けてくれるんだろう
・浅草ロック
行ってみようぜ浅草ロック 金持ち貧乏目立たぬ街さ
騒いでみようぜ浅草ロック ネオン消えても眠らぬ街さ
そうさエノケンみたいに踊って
清金(しみきん)みたいに笑って
千ちゃんみたいに怒って
電気ブランで浅草ロック 道で吐いても目立たぬ街さ
鯨食おうぜ浅草ロック トドを出してもばれない街さ
そうさオペジュウみたいに切られて
メリケンみたいに暴れて
キヨシみたいにたかって
観音様と浅草ロック ハトを食っても怒らぬ街さ
三社祭と浅草ロック 人が死んでも騒がぬ街さ
そうさ伸介みたいに太って
渥美(あつみ)みたいに気取って
東八(とうはち)みたいにナマって
・海
海辺に立ち、ひとり思う
生物が海から発生し、何億年もかけて
進化を繰り返し、やがて地上に上陸し
生物の頂点に立つ人間に進化した
しかし最も進化したはずの、人間が
母なる海の前で
社会だの、仕事だの
家族、愛、恋、死、だなんて悩む姿を見て
海はどう思うのだろう
こいつら何も進化してない
何にも解決してないじゃないか
いや、解決できないから
人間みたいな生物になっちゃったんだ
そう思うかな
・初詣
もう二月、思いついたように浅草寺(せんそうじ)に行く
隣りの彼女はお金を投げて、何か拝んでいる
喫茶店で、何、拝んでた、と聞くと
ナイショと言って、ちょっと笑った
でも悲しそうだった
彼女はなにをお願いしたんだろう
大げさな事ではなく
普通のありふれた事だろう
それも叶えられない自分が悲しかった
上記23の詩 著者 ビートたけし
・最後に光彦の評価
★★★★★5点(5点満点中)
傑作。将来本棚に入れたい本です。