(13冊目)97歳の一人暮らし。吉沢久子「ほんとうの贅沢」

2021年4月25日

97歳で一人暮らし。
こう聞くとまるで未知の領域であるかのような聞こえ方がするが、
特にこれといって特別な一人暮らしであるというわけではない。
だが「淋しくないのかい?」という声は聞こえてきそうである。

人間はコミュニケーションをとって元気や健康を保つ生き物というのは昨今のライフハック記事でもよく取り上げられる話題であると思う。
しかし基本、孤独であるという印象の一人暮らしが、むしろ気楽であるということを本書では教えられる。
そして「自分のことは時間がかかっても自分でやる」という強い意志を感じ、著者が97歳であることを読者は半ば忘れてしまうだろう。

(13冊目)97歳の一人暮らし。吉沢久子「ほんとうの贅沢」

吉沢久子(よしざわひさこ)さんは、1918年東京都生まれ。文化学院卒業。家事評論家。エッセイストである。
夫、姑(しゅうと)と死別したのち、一人暮らしは65歳から30年以上続いているようだ。
ウィキペディアによると、101歳で死去。この「ほんとうの贅沢」という本を書いてから、なんとその後、死ぬまでに20冊もの本を出版しているというのだから驚きである。どうとらえるかは人によって違うだろうが、僕から見れば吉沢久子さんのこの活動履歴は「90歳からでも人生はまだまだ可能性がある」ように感じられる。

今回のブログでは、断片的ではあるが、本書の中身を少しだけ公開していく。

↓内容はここから↓

 

こだわりを捨ててみると

お正月には必ず料理を用意して、お屠蘇(とそ)をいただいて、お祝いをしなくてはならない。
お盆には、必ずお墓参りをしなければいけない。
お中元やお歳暮は、絶対に贈らなければいけない。

古い世代の人間ほど、そう考えがちです。
季節が巡るのに合わせて、昔ながらのやり方で行事を行なうのは素晴らしいことですが、身体に無理をさせてまでそれにこだわる必要はないように思います。
足腰の痛みに耐えながらお節料理を用意するくらいなら、お店に注文して届けてもらえばいいのっです。今はスーパーマーケットや、コンビニエンスストアでも予約ができます。
体調が悪いのに、暑い最中無理にお墓参りをして、身体をこわしては意味がありません。お墓に眠っている方も喜ばないでしょう。
遠くからであっても、死者を悼み、生前の出来事を思い返して過ごせば、それで十分ではないでしょうか。

 

なるべく人に頼らない

一人暮らしは私にとって、最高のわがままです。とても気楽で、贅沢な幸せだと私は思います。
自分の生き方を自分で決める自由のあることが、幸せなのです。
私はこの贅沢を貫いていくために、なんでも自分でしなければならないと、いつも気を張っています。
「なるべく人に頼らない」ことを、常に心がけているのです。
もちろん、折に触れて私をきにかけ、助けてくださる方たちはたくさんいます。本当にありがたいことです。

私は仕事も家事もしていますが、さすがに体力は衰えてきて、難しくなってきたこともあります。もちろん歳も歳ですし、人に頼ることもあります。
また、頼らざるを得ない場合もあります。歳をとり、ひとりになってみると、意外なことが負担に感じられたりするものです。

たとえば、ベッドメイキング。手足の動きがおぼつかなくなってきた年寄りが一人でこなすのは大変です。片足を引っ張ったら、次は逆サイドへ移動して引っ張ったりと、重労働なのです。
そこで、姪(めい)に頼んで来てもらうのですが、彼女にも都合があります。お互いのスケジュールを合わせるだけでも、手間がかかります。
改まったお礼はしいにくいので、来てくれた時はお菓子などをさりげなく渡して、持って帰ってもらうようにしています。

頼めば来てくれる人がいる。だからといって、それを当たり前だと思ったら、頼るのが日常になってしまうでしょう。それが怖いのです。
だからこそなるべく頼らず、自分でやらなければ、常に自分を戒(いまし)めることが必要です。頼られると、やはり相手は困るのです。
(中略)

人は年をとるほど自分に甘くなります。頼ることが当たり前になれば、ますます自分を甘やかすでしょう。
「掃除はほどほどでいいだろう」
「少しくらい洗い物をためてもいいだろう」
それが当たり前になるのが、私は嫌なのです。

私は、自分のことだけを考えて過ごせる、一人暮らしという贅沢をしているのですから、なおさらできることは自分でやり、気を張って、生きていきたいと思うのです。

(中略)男性より女性が長生きなのは、あれこれ人の世話をやいて気を配り、動き回るからだといいます。
ベストセラー「脳の強化書」(あさ出版)の著者で、脳のスペシャリストである加藤俊徳先生も「人のために気遣うことが、健康にも良い影響を与える」とおっしゃってました。

相手にも考えがある

人は、一人ひとり違います。
人それぞれ価値観を持ち、それぞれの考えをもっています。そして、自分とは違う相手を尊重してこそ、自身もまた尊重されると思います。
逆に考えれば、自分さえよければいいと考え、自分の権利ばかりをふりかざして、相手の考えを無視していたら、それは必ず自分に返ってきます。誰からも、認められなくなってしまうでしょう。

人と違っていいのです。

自分と違う考えに目くじらを立てるのは意味がありませんし、意見を戦わせても実りは生まれません。むやみにぶつかるのは、人生の浪費です。
違っても仕方ない。
そういうつもりで生きたほうが、気持ちを乱されません。
人間は、認められたい生き物です。だから、人のことも認めます。そういう態度で生きるほうがいいと思うのです。

もともと、意見が違う相手を説得しようとしても、そう簡単にはいかないものです。自分と相手の立場を入れ替えてみれば、よくわかります。相手の意見を強く押し付けられても、簡単には納得できないでしょう。それは相手だって同じです。

だから違うことを受け入れる。

それもひとつの勇気のかたちではないでしょうか。

ただ、自分はそのつもりでも、相手がこちらを認めず、強く意見を押し付けてくることもあります。
何気ない一言を、自分の都合のいいように受け取って、勘違いしてしまう人もいます。
ですから、私は会話の中で相づちを打つとき、
「あらそう?」
「そうなの?」
と言うだけにしておいて、決して
「そうね」
とは言いません。
要するに、相づちは打っても、同意はしないのです。

以前、共通の知人について不満をこぼしている人の話を聞きながら、単なる相づちのつもりでうっかり、

「そうね」と返してしまったことがあります。
その人はそのたった一言を聞いて、自分への肯定ととってしまい、あちこちで「吉沢さんもそう言っている」と、伝えてしまったのです。以来、私は気をつけています。言葉というのは難しいものですね。

価値観の合う人と一緒にいられるのは、とても幸せなことです。
いいかえるなら、価値観が人と合わないのは当たり前のこと、普通のことで、お互い違うのだと認め合うことで、はじめて居心地よく一緒にいられるようになります。
違いをたのしんだり、おもしろがったりする余裕があったほうが、生きやすくなると私は思うのですが。

 

 

自分に「足りないもの」ばかり数え上げない

生きて年月を重ねる中で、私たちはさまざまな人に出会い、さまざまなことを経験し、それらへの対処法を身につけていきます。
すると、不思議と物事に対してのこだわりがなくなったり、何事も落ち着いて受け止められるようになったりします。
しかし一方で今まで以上に、執着心や嫉妬心が強くなっていく人もいるようです。
欲望や嫉妬といったものは、多かれ少なかれ誰の心の中にもあります。
自分より幸せそうな人、金銭的に恵まれている人、仕事で成功している人、若々しい人、未来の可能性に満ちている人を見て、嫉妬を覚えるのは、当たり前のことです。
考えまい、思うまいとしたところで、湧いてくる感情はどうにもなりません。

もっと幸せになりたい。
もっと裕福になりたい。
もっと成功したい。

この感情は、人としてあって当然のものです。

ただ、欲や嫉妬ばかりが心に渦巻いているような人は、裏を返せば、

自分はまだ幸せじゃない。
自分はまだ完璧じゃない。

と、自分自身の悪い部分についてばかり考えている、ということでもあります。自分に足りないもの、至らない点ばかり数え上げて、四六時中それについて考えていたら、自分を嫌いになってしまいそうです。

何度も言いますが、欲や嫉妬の感情は、あって当然のものです。
だから、突き詰めて考える必要はありません。湧いてきて当然の感情を否定したり、批判したりすることで、わざわざ自分を苦しめることはないのです。
もし、欲や嫉妬を抑えきれなくなり、周りの人への攻撃や批判につながってしまうようなら、もっと自分の良い面に目を向ける努力をしたいのです。
すでに持っているもの、できること、やってきたこと、身につけた技術や、家族、友人の存在をひとつずつ数え、それらが自分にあることに感謝したほうが心が豊かになります。

人はみな、何かしら自分にしかないものを持っているのに、自分以外の人が持っているもののほうが、素晴らしく見えてしまうようです。それは、ないものねだりでしかありません。自分の手の中に、すでにあるものの価値を、もう一度確認してみてはどうでしょう。
もうこれで十分。

そんな風に思える、自分らしい願いを持ちたいものだと思います。

最後に光彦の評価

★★★(5点中3点)

エッセイです。気軽に読めて深いと思います。ありがとうございました。

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